
霧が流れてススキの穂が風になびく。9月23日(火/祝)、標高1572mの高ボッチ高原は朝8時過ぎで気温は13℃と涼しい。
1952年から半世紀にわたり草競馬場が行われていた信州・高ボッチ高原。その走路を利用して、2025塩尻チロルの森シクロクロスサテライトイベント『塩尻ダート6』が開催された。伝説の巨人“だいだらボッチ”が腰を下ろしてひと休みしたというここは眺望に恵まれ、晴れていれば諏訪湖や南アルプス、富士山の眺望を満喫できる。
1周が約400m、ホームとバックストレッチは幅8mほど、コーナーは6mほどで、走路はところどころ草が生えている締まった土質だが、ホーム側は数十mの深めな砂。歩いてみると足が軽く埋まる。これは細いタイヤじゃ埋まってしまう。
塩尻市から草競馬場の再利用を打診されたシクロクロス関係者は、競輪のピスト6を模したイベントを考え、2026年の第1回開催に向けてプレ大会としてわずかな準備期間で実施にこぎつけた。急きょ集まった選手は11人。
競馬場に近い牧場で牛が草をはむ。ここは八ヶ岳中信公園国定公園
シングルギヤで力走の選手も。ギヤは47×19Tを選択での回転重視
予選として1周の個人タイムトライアル。タイムは1分くらいか、との予想を裏切り40秒台が続出!
予選タイムによりクラス分けされレースは10周。ディビジョン1とディビジョン2で第1ヒートを走り、第2ヒートでは上位走者が上のクラスに繰り上がり移行。
ホームからはライダーの走りがよく見えた。予選走行のころは気温18℃くらいで肌寒さは感じない。静かな高原でバックストレッチを力走するライダーが3コーナーで視界から途切れ、4コーナー出口に現れると息遣いや先を見遣る目がリアルで、観客を飽きさせない。
レース前は脚にきそうな重い土と砂のコースで10周回はキツくて、レースが中弛みするかとの心配もあった。だがそれは杞憂だった。
第1ヒート後の某選手コメント、「最初は先行する選手の背中につきたいと思うけど、中盤はあと何周だ?と思いながらも、終盤はまた前に出ようと…」そう言えるように10周は、走者にも観客にもちょうどいいみたいだ。
最後に追い込んだ選手、ばたり倒れて呼吸を整える
第2ヒートのディビジョン1では、レース中盤では砂地の区間に轍で踏み固められたレコードラインができて一列棒状で小集団が走る。
ディビジョン1の優勝は高校生。「学校の後に塾で勉強して、毎晩8時から9時に30kmほど夜練習しています」と語る。その成果が実った。ディビジョン2では小学4年選手も最後まで頑張っていた。
縄文人が住んでいたという高ボッチ周辺。彼らは原初的な自然崇拝=アニミズム信仰を持って生きていたと歴史学者はいう。この草競馬場で、風にたなびく草と流れる雲をみながらのダート6、身体を躍動させた選手と盛り上がった観客が楽しんだレースイベントが、祭りのように思えてきた。