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『新家工業百年史』(平成15年刊)によると、1903(明治36)年に新家熊吉氏が、それまで漆器製造をしていた工場の半分で自転車のリム製造に着手した、と記されています。

1864(元治元)年、北陸・山中温泉の米穀商の次男に生まれた熊吉は、叔父の養子になり漆器の会社を16歳で継いだ。白山の麓で良質な木材に恵まれた地で、“山中塗り”の漆器は土産物として人気があった。明治新政府は外貨獲得のために漆器輸出を推奨して熊吉の会社も忙しかったが利が薄くて赤字のこともあったため、熊吉はアイデアを捻り出した。

原木から製品を切り出す方法を改め、製品を加工するロクロにも工夫して省力化を図ったのだ。そうしたサクセスストーリーを角田安正さんが著書、『自転車物語スリーキングダム』(八重洲出版刊)で描いています。明治時代に国産自転車が誕生する舞台裏がサクッと読めますよ。

百年史に戻れば、―明治初年には舶来の一玩具に過ぎなかった自転車も、前輪にペダルを直結した木製のボーンシェーカー型から前輪を極端に大きくしたオーディナリー型に、そして空気タイヤをつけてチェーンで動かすセーフティ型へと次々に改良型が輸入され、日本に市場が定着しつつあった。明治34(1901)年には国内自転車保有台数は5万6616台、翌年には1万5092台が輸入―されていた。

そんな時代背景で熊吉は、漆器製造の会社を分業して得意な木の加工を生かして木リム製造に踏み出した。研究の末に開発した木リム製造工程は以下のようなものだ。

①原木処理:原材は高級品はカエデ、一般用はシデを用いる。これを長さ7尺・厚さ8分・幅1寸8分の細長い板に粗挽きし、蒸気で蒸して柔らかくする。

②曲げ成型:柔らかくなった原材を金属製のリム型に巻きつけて留め金具で固定し、おがくずの火で2日間ほど熱して乾燥させ輪型に成型する。

③接合:②の工程が終わった原材を型から外し、接合部に鋸歯形の切り込みを入れて噛み合わせ、「もちのり」で接着する。

これ、創業1946年で今も続くイタリアの木リム工房「CHRCHIO GHISALLO」でも基本的に同じで、ホームページを訪問すると動画が公開されています。

https://www.cerchioghisallo.shop

ギザッロの木リムは良質なブナ材で、節をのぞいて2mの長さに切り、さらに薄く加工し、それを金型内で接着剤と重ねて10時間圧着するそうです。

天年素材の自転車パーツ、温か味があります。

Post Author: coppi