鳴島英雄さんと郭　金仁さん

• 1982年のチャレンジロードでクラブ員と鳴島英雄さん。（photo提供：JACC）

なるしまフレンド会長の鳴島英雄さんが10月14日に84歳で逝去されたのは既報だが氏の厚徳をさらに書き残したい。

台湾（中華民国）はサイクリング好きには自転車の生産拠点だが、政治的には微妙な立ち位置にあるのはご存知のとおり。経済の高度成を経てバブル崩壊期となる1980年代後半から1990年代の日本は、台湾製のリーズナブルなスポーツサイクルが店頭に並び、市民レースが盛んな時代だった。1976年の「チャレンジロード」を緒端に「日刊スポーツグランプリ」、「神鍋カップ」、「オリベッティ・ツールドジャパンシリーズ」などの一方で、実力別ランキングシステム採用のJCRCレースが誕生した。

JCRC（日本サイクルレーシング協会）はレース系が得意な有力サイクルショップの両巨頭である鳴島英雄さんと殿村秀典さんがタッグを組んで運営。最盛期は関東近郊で年間10戦ほど開催。2021年11月22日、JCRCはwebに役員の高齢化を理由に解散告知をし、40年間の活動（1980年〜）に終止符を打った。最終戦は12月11日の下総運動公園でのJCRC最終戦だった。

現なるしまフレンド代表の鈴木淳氏は、「鳴島会長はレースで勝ったときの気持ちよさが好きで、JCRCでは脚力のある人にはそれなりに楽しめるようにしたかった。クラブ員には勝利の高揚感を感じて欲しかったのだと思う」とおっしゃる。クラブ参加のイベントでアシストに徹してチーム員を勝利に導くのも、JCRCでたくさんのロードレースファンに走る場を提供するのも、同じ想いであったのだろう。

JCRC運営ノウハウは台湾、中華民国にまで波及していた。鳴島さんはアジア圏のレース関係者と広い繋がりがある山王スポーツの故・高橋長敏さんに誘われて1981年の台湾123kmレースに参加。123kmレースは新竹で２回、高雄で１回参加し、２度目の新竹レースで入賞したのですっかり台湾車連の人たちに覚えられた。中華民国自転車連盟（自由車連盟）理事長だった謝さんの次に就任した理事長がジャイアントの董事長の劉さんで、そこからステージレース＝ツール・ド・台湾（現在UCIアジアツアー2.1）をやるので参加しないかとの誘いがあり、なるしまフレンド数人で参加した。

ツール・ド・台湾の初期は、日本自転車競技連盟も強化選手派遣をしているが微妙な国交関係で正式招待待遇ではない。1992年と1993年には日本から「サーティーワン」がツール・ド・台湾に参戦して、チーム代表の中村賢二さんはレース関係者から「当初に鳴島さんの功績があった」と聞いたそうだ。

• ツール・ド・台湾のロゴ。（photo提供：中村賢二氏）

中華民国自由車協会監事の郭　金仁さん　（日台友好サイクリングプロデューサー）と鳴島英雄さんは、「ツール・ド・台湾の第10回大会くらいまで一緒にレース運営の礎を築きながら友情を育てていた」とは、JACC（日本アドベンチャーサイクリストクラブ）の松坂佳彦さんの証言。

• 世界一周サイクリストの梶政雄さんと鳴島さん。梶氏はチーム員としてなるしまフレンドのレース活動にも参加。（photo提供：JACC）

冒険サイクリストの先駆け、JACC代表である池本元光さんは郭　金仁さんをよく知っている。1987年、JACCは台湾人で初めて世界一周を果たした胡栄華さんに“地球体験ペダリアン大賞”を贈呈するために訪台した。さらにもうひとつ、“台湾一周親善サイクリング”も行なった。この２つのプロジェクトを敢行するために、池本さんはほとんど何のつてもなく、日本のサイクリング協会にあたる中華民国自由車協会にいきなり電話した。そこで偶然に電話を受けたのが郭　金仁さんだったわけ。かつて日本の植民地であった台湾では日本語ができる高齢者が多くいた。「日本語のできる郭さんが電話に出てくれて助かりました！」と池本さん。

• 1989年の中華民国自由車協会オフィス。左が郭　金仁氏（photo提供：JACC）

郭さんの仕事は早く入念だった。台湾一周ルート策定に自治体や警察の協力を取り付けてスムーズに安全に走れるように図ってくれた。1980年代からの台湾一周サイクリング（台湾踏板上的勇者活動）のムーブメントは21世紀には多くの台湾人も挑戦するロングライドイベントに発展した。郭さんはその後、来日してJACCや、なるしまフレンドとの交流サイクリングもしていた。

郭さんと鳴島さんはレースにもツーリングでも台湾のサイクリング界に貢献した。郭さんが癌で入院した2012年には、鳴島さんは友人として見舞いに訪台している。郭さんは同年12月31に逝去された。合掌。

• 前列左が郭　金仁氏、右が鳴島英雄氏。（photo提供：JACC）