清水浩史著『幻島図鑑』(河出書房新社)を図書館で手に取り、たちまち惹き込まれた。約300ページの前半三分の一が、カラー写真を入れたビジュアル誌面のガイドで、後はルポルタージュ的な紀行文で読みやすい。
海にまつわる世界に興味が尽きない人が書いている。僕と似ている。
著者は学生時代に水中クラブ所属、ダイビングインストラクター免許取得、テレビ局勤務を経てから大学院で法学政治学を学び、書籍編集者・ライターという経歴の持ち主で、海に関する著作が多い。
表紙をめくると、“幻島”の定義が簡潔に示されている。
<はかなげで、稀少性のある、小さな島>
はかなげ=人口が少ない、もしくは無人島、無人化島。
稀少性=珍しい名称・フォルム、稀有な美しさ、知られざる歴史。
小さい=面積が小さい、狭小性。
少ない文字数で書籍が内在する奥行き明確。
前半三分の一は数値データと国土地理院の地図で抜かりないガイド。
そして17の幻島を日本地図に入れ込んだ図の見開きがドーンと誘う。
岩手県の大島:別称オランダ島の海水浴場に触れたなかで著者が、詩人・小説家である小池昌代さんに「小池さんは海で戯れる魅力をどのように捉えられているのか。なぜ夏の海の記憶をずっと大切にしているのか」とたずねたエピソードがあった。すると小池さんは、「山は一種、守られている。海は守られていないからーー。人は山に入る際、衣服に包まれているけれど、海では衣服を脱ぎ捨てる。このことが記憶に関係しているのではないかしら」と応じる。続けて、衣服を脱いでいるから<人は無力であることを感じる。どうしようもなく小さな存在であると。裏を返せば、周りの世界の大きさに触れる、包まれる……>と綴られる。
僕は海水浴場で基本的にボディボード、足ヒレを装備し、ティーシャツも日除けに着用する。大好きなセーリングでも衣服着用だしヨットでは板っこ一枚下が地獄でもそれなりに囲まれ感があるので海と戯れているのは同じでも、無力感より征服感があるような感じだ。
それにしてもああ悔しい。幻島図鑑の紀行文、いずれもすごく面白かった。17地域ほとんどは行っているのに取り上げられた島に行けていない。“幻島”というテーマを持って生き、それを本に編んだ著者が羨ましい。
清水浩史著『幻島図鑑』(河出書房新社)税別本体1.600円
2019年7月30日初版発行 ISBN978-4-309-29035-5