手づくりでダルマ自転車を製作した人に出会った。長 裕(OSA YUTAKA)氏だ。英国のサンビーム、BSAなどを愛する自転車マニアの長さん、かねて、「もっと古い100年前の自転車にも乗ってみたい」と思っていた。そんな折、浜松の骨董屋でアメリカ製のボーンシェーカーを見つけた。不動車で修理必須の代物。
職業柄レストアはお手の物である長さんは、ひるむことなく購入するや修復や消耗品手配と同時進行で、アメリカにいる元持ち主にも連絡をとって仕上げて乗ってみると、「こんなに気持ちよく楽しいとは」と感動。それからのめり込んだ。
ワンオフ魂に火がついた。ボーンシェーカーは文字どおりBoneshaker=骨ゆすりで、乗り心地の悪さからついたアダ名だが、「それほど乗り心地は悪くないですよ。ある時期にゴムホースをタイヤの代用品として使ってみたけれどゆっくり走るにはかえって柔らかな乗り心地で快適でした」との由。何よりも高い目線で走行するオーディナリーの魅力が勝った。
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長さんが目指すのは、1870年に英国人ジェイムス・スターリーにより完成されたオーディナリー。金属製スポークを採用して軽量化し、スピードを追求するあまり前輪が後輪の3倍以上も大きくなった、日本では“ダルマ自転車”と呼ばれたもの。スターリーの発明したオーディナリーは純粋な競争機材として遊び好きで裕福なスポーツマンに受け入れられた。
長さんのダルマは前後ブレーキを装備
写真は試作2号車。前輪径が48インチなのは理由がある。
「オーディナリーの優美なフォルムには50インチ以上の前輪径が欲しいけれど、これは星スポークに特別注文して受けていただけたものの設備機械の都合で最大長さ500mmでした。スポーク長から逆算すると、スポークをラジアル組みにしても48インチしか実現できなかった」ので、それに合わせてハブやリムを溶接して形をつくった。
次に製作する車輌では、そんな妥協は不要になった。「転造の機械を導入しました」と長さん。転造とは、金属を削らずに金属材料を挟み込んで圧力をかけてネジ山をつくる加工法のことで、次回作は50インチ以上の前輪を実現できる。1号車の値段を付けるとしたら、開発費を考慮すれば50〜60万円になる。フレーム素材はSTK一般構造用炭素鋼、車両重量は17kgだ。
なにより、長さんはオーディナリーの気持ちいい走りに共感する愛好者を増やしたい。 「次回作は、剛性・操縦性などの不満を改善してつくります」と言う。フレームチューブは後輪に至るフォルムをスエージング加工して絞っているが、「もしもコストカットするならここですね。同好の士を増やすためには値段を下げないと」と長さんは小さく笑う。