このブログでcoppiが主張したいのは、<スポーツのレベルによってジェンダーの扱いを分けるべきである>です。長文ですがお付き合いください。テーマは男性から性転換した女性選手のことです。昨日はスポーツ政策学会セミナーをwebで聴講。議題は『医師の立場から見るトランスジェンダーの競技参加に係る政策課題とは』で、発表者は、千葉大学大学院形成外科医学博士で、サッカー競技が専門の貞升彩さん。
©︎貞升彩『医師の立場から見るトランスジェンダーの競技参加に係る政策課題とは』より引用
サッカーでは女性から男性へ性別移行するFtM(Female to Male)の比重が大きい。しかし女性アスリート権利擁護団体の女性スポーツ独立評議会(ICONS)によれば、「MtF(male to female)選手は女子の有力国際大会で50人ほど活躍していて競技種目は自転車が最も多い」そうです。ちなみに、出生時の性別が大人になっても違和感ない性自認の人はシスジェンダー(Cisgender)と言います。
写真:UCIのFacebookより引用(2020年)
ジェンダー論議の火元はアメリカです。
時系列で説明すれば、 アメリカでは1972年制定の法律で、教育における性差別を禁じましたが、トランスジェンダー生徒のスポーツ参加に関する明確な基準はなかった。その後、2015年6月、米国全土での婚姻の平等(同性婚)が認められると、それまで「伝統的な家族観と相容れない」として同性婚実現を強硬阻止しようとしていたアンチLGBTQ(主として宗教保守)の人たちが怒りの矛先をトランスジェンダーに変針して攻撃を始めたのです。
オバマ大統領は公立学校でトランスジェンダーの生徒が性自認に基づいてトイレや更衣室を使用することを認めるよう求める通達を出しましたが、2017年1月に就任したトランプ大統領はすぐにそれを撤回し、7月にはトランスジェンダーの従軍を禁止すると述べ、翌年は性別変更を禁じる法案を準備し、トランス女子の学生が女子競技に参加することは女性の活躍機会を奪うと主張。すると哀しいことにトランスジェンダーへの直接的暴力が激化し、2020年には全米で40人超が殺害されました。
そんなトランスジェンダーへの差別・暴力・排除が激化した流れのなかで、2019年には20の州で、トランス女性の生徒が女子として競技に参加することを禁じる法案が可決されたのです。
coppiが主張したいのは、<スポーツのレベルによってジェンダーの扱いを分けるべきである>です。オリンピックを目指すようなシリアススポーツのパスウェイ(頂点を目指す選別)では、男女に分けての性二元カテゴリーを維持するのは順当でしょう。
しかし、第二次性徴が発現する以前の子ども世代では、性自認を容認したクラス分けカテゴリーにするのが、人権を尊重することになります。差別せず、理解する。すべての人にサイクリングを楽しんでほしい。
シスジェンダーのアメリカ女性は、学生スポーツで活躍することで進学や奨学金獲得に影響があるので不満を持ち訴訟に持ち込む場合があるようです。しかし、日本ではどうなのでしょう。日本と精神的土壌が似ているとされる韓国では、2023年にMtFであるナ・ファリン選手が6月3日の第58回江原道地方競技大会に出場し、公式大会に出場する韓国初のトランスジェンダーとして話題になりました。
写真:ナ・ファリンのFacebookより引用
トランスジェンダー女性である37歳のナは、前年から性的少数者である自分がいることを示すために2012年の江原道地方競技大会に出場しつつ、女子選手たちにドリンクを配るなどの気遣いをしてきたそうです。
韓国の公式スポーツ大会には現在、トランスジェンダー選手の参加を禁じる規定はありません。ナ選手は優勝し、「今日のレースを踏まえると、男子と女子に加えて第3の競技カテゴリーが必要だと思う」と語りました。
エリートスポーツ界の流れを書いておきます。
IOC(国際オリンピック委員会)は2016年に「性自認が女性であることの宣言」「出場前1年間はテストステロン値が10nmol/L未満に維持」をクリアしていればトランス女性が女性競技に参加できると決定しています。
国際スポーツ医学連盟も2023年3月に声明で、「トランス女性が女子で競技をすることを不平等とする証拠はなく、体格などの外見は性別に関係のない個人の特徴である」と謳っています。でも、トランス女性選手のパフォーマンス検証研究ではトレーンング次第で筋力や心肺能力はシスジェンダーに対して優位とするものもあるようです。
©︎貞升彩『医師の立場から見るトランスジェンダーの競技参加に係る政策課題とは』より引用
しかし、 生物学的に男性として生まれたトランス女性に対してシスジェンダー女性が不利になるとする見方は根強く、2022年6月に国際水泳連盟はトランス女性選手が“男性”としての思春期をわずかでも経験した場合は女子競技への出場を認めないこと決め、2023年3月には世界陸連が同様の方針を決めました。これにUCI(国際自転車競技連合)も2022年に追随し、2023年には「今後、(男性の)思春期以降に性転換したトランスジェンダー選手は、UCIの国際カレンダーに含まれるあらゆる大会において女子種目への参加禁止」とし、オープンカテゴリーを設けてそこに参加させる措置を整えました。
©︎貞升彩『医師の立場から見るトランスジェンダーの競技参加に係る政策課題とは』より引用
UCIのダヴィッド・ラパルティアン会長は次のように述べています。「UCI としては、個人の性自認に対応した性別を選ぶ権利を尊重し、支援することを改めて確認しておきたい。しかし、UCI には、何よりも、あらゆる自転車競技大会において機会均等を保証する義務がある。現在のUCIにおける科学的知見は、トランスジェンダー女性のアスリート誕生時性とシスジェンダー女性の参加者の間でこうした機会均等を保証するものではないことから、予防的措置としてトランスジェンダー女性が女子カテゴリーで競技する許可を出すことはできない」とコメント。
頑迷ですね。
<参考>
https://cycling-life.tokyo/ジェンダー自認と生物学的性/
http://www.jbrain.or.jp/q-n-league/column/qn-column20240123.html
https://www.afpbb.com/articles/-/3410319
https://washingtontimes.jp/2023/05/05/7708/