Site Loader

じつに面白くて一気に読めた!

5月に上梓された新刊『自転車で勝てた戦争があった』―サイクルアーミーと新軍事モビリティー  (兵働二十八著・ 並木書房刊)は、軍用自転車に着目した戦争史。

著者の兵働二十八(ひょうどう にそはち)氏は1960年生まれ。陸上自衛隊北部方面隊、『月刊戦車マガジン』編集部などを経て、現在はフリーランスライター。経歴からわかるように戦争に関する造詣が深い。そんな兵働氏が2年ほど前にある道具を知った。

これがあれば日本はインパール作戦(1944年)などで出した戦没者(その多くが作戦撤退で動けなくなり餓死)はもっと少なかったかも。もしかして勝てた局面もあったのではとの妄想(ママ)に囚われ、兵働氏は2023年を執筆のために古今東西の軍用自転車関連情報収集に没頭。 

序文冒頭に、<近未来に、古くて新しい《自転車》や《無動力のスクーター》が、何万人もの命を救うことになるだろう>と断言。そのシンボルが、コンゴ人の大発明、廃材と山刀だけで自作できる陸上運搬機“チュクードゥー”だ。 ここではあえて兵働氏の新刊本紹介とし、チュクードゥーは次回記事にまわす。“自転車で勝てた戦争”という論の切り口が自転車マニアには興味深いからだ。

コンテンツは6章構成で、第1章は=インパール作戦―「置き去り」にしたかどうかで決まった「餓死者数」。  第二次大戦、インドとビルマの間には不毛の密林山脈と長い雨季=モンスーンが“自然国境”として障壁を成していた。インパール作戦で日本軍は密林を行軍してイギリス軍を討とうとしたがそれは甘かった。

 日本軍は194438日〜73日の4カ月で将兵10万人を動員したが、4カ月の作戦期間を通じて、退却途中の置き去りを含めた陣没者数が3万人にのぼるとされる。連日の土砂降りで傾斜地の道路は流され、渓流は増水で濁流となり、平地では湿地の面積が増える。 3万人の死者のうち8割もが実態として「餓死」にカウントされるのが相応しかったと聞けば、誰もがインパール作戦はスキャンダルと感じるでしょう。

本書には作戦不備の微に入り細に入りが詳述されている。さらに日清戦争(1894年)、日露戦争(1904年)に至るまで、作戦を立案するときの盲点を綴っているが、そこで兵働氏は<プッシュバイクで、師団の馬や自動車を完全に代置できたか?>と推論を展開。

プッシュバイクとは、ベトナム戦争(1955〜1975年)でベトコンが密林のなか弾薬などを運搬するのに活用した自転車で、手押しで重い物資を運搬。徹底したゲリラ戦で、道なき道をプッシュバイクなら進めたしかなりの重量を積載できた。 ベトナムが最終的に飛行機やトラックなどがある宗主国フランスやアメリカ主体の連合国に勝利できたのは、ロジスティックを人力プッシュバイク活用で維持できたからだ。

軍用自転車の嚆矢は、南アフリカでイギリス軍とボーア共和国軍が交戦した第二次ボーア戦争(1896〜1902年)で双方が大々的に安全型自転車を活用、それをヨーロッパ各国が見ていて自国でも採用したという。 ボーア軍のダニエル・テロン大尉が最初の「自転車部隊」を組織した。

テロン大尉は自転車競技のスター選手だった人物で、馬の騎乗者と距離75kmの上り坂競争をして勝ち自転車の優位性を証明。馬には睡眠と餌と水が必要だが、自転車なら注油と空気ポンプがあればいい。自転車は、蹴ったり噛んだりすることもないーというわけだ。

ボーア戦争の舞台である南アフリカの草原ではイギリス軍の馬騎乗者は数マイル遠くでもその姿を晒したが、ボーアの自転車歩兵は低い姿勢で走り、闇夜や植生に紛れられたし、自転車を倒して伏せれば敵に気づかれない。これは後のベトナム戦争でも同様、ベトコンも上空に敵戦闘機のエンジン音が聞こえたら木陰に自転車を倒して隠れた。

日本軍は昭和16年(1941)の「マレー侵攻作戦」だけは“銀輪”が活用された。

なぜなら、イギリス軍が占拠するマレー半島へ侵攻するために日本軍が熱帯の海を船舶で南下するのに船倉下層デッキの馬は暑さに耐えられず死んでしまうだろうと上層部は考え、現地でトラックに積みきれない歩兵や工兵の移動は現地で自転車を徴用させた。集まったのはラレーやBSAだった。

銀輪部隊はマレー半島に延々と続く舗装縦貫道路を約10貫(37kg)の個人装備を自転車に積み小銃や軽機関銃を背負い、最長で1日に20時間も走ったそうだ。マレーには丘陵の道路脇のプランテーションにはゴムの木が植えられていたので、パンクすると生ゴム液をパンク箇所に塗ってローソクの火で暖めれば修理できたとか。

軍用自転車はどこの国も当初は伝令・斥候に用いられた。次に石油資源に頼らずに1台で100kg程度の装備運搬が人力でできて、道なき道でも押し進められる移動手段という美点が証明された。

だから、兵働氏は<近未来に、古くて新しい《自転車》や《無動力のスクーター》が、何万人もの命を救うことになるだろう>と主張する。エコな自転車は戦時だけでなく、災害時も有効でしょう。

ホント、同感です。

画像はwikipediaなどのweb画像転載

Post Author: coppi