
「コントロールが難しい!」
舵輪を握るキャプテンH氏の声が真剣だ。
10月6日、午前9時過ぎに東京湾・夢の島マリーナ(江東区)を、キャプテンと2人で43フィートのセーリングクルーザーで出航。
5日朝に台風22号(愛称Halong)が小笠原沖で発生したがゆっくり西に移動して行くとの気象予報だった。
「遠ざかるのであれば、ちょっと行きましょうか」と軽い気持ちで舫を解いた。
夢の島マリーナでは浮桟橋の修理中
我々は40年以上も東京湾でヨット遊びをしてきた。それでも、6日の天候急変は忘備録的に書き残そうと思う。それほど印象的な出来事でした。
ヨットやモーターボートが東京湾を最奥部から出口に向かうルートは、湾の中央部にある本船航路を避けて、三浦半島側、もしくは房総半島側を辿るのがルール。我々は三浦半島側を選択し、まずはメインセールを揚げ、ジブセールも展開。磁針方位210度。ギリギリのクローズドホールド。6〜7ノットで帆走。
羽田沖、マストの高いヨットは飛行場に近づくのはNG
羽田沖から横浜沖に進むと波が立ち始めた。
でもこれは大型船による引き波が複雑に影響しているはず。いつもそうだから。
風速は12mくらい。薄曇りなので半袖短パン。
曇り空で、視界は2マイルくらい。千葉側の工業地帯は煙突だけはようやく視認できる。風も強いが、台風の影響だからと考えていた。風に合わせてセールを展開。塩っぽい話で盛り上がる。
追い風気味でよく帆走る。エンジンはデッドスロー。横須賀沖では自分が舵輪を握っていた。左に第三海堡、右に猿島が見えていた。そして周囲には大型船とパイロットボート。
ちょっとヤバい。本船航路に近寄りすぎた。舵輪をキャプテンに譲る。その後、我々は“津波”の襲来を受けた! ホンモノの津波じゃなくて本線の引き波。その波が、換気のために開けていたバウハッチ(前部小窓)から勢いよく侵入、一瞬メインキャビンを舐めて通り抜けた。
当然ながら危ないシーンの写真はない。これは別の日、海から見た鋸山
観音崎に差し掛かる昼時、風はさらに強まり、追い波が高い。
機帆走で強風下だがジブは巻き上げた。
ここまで風が上がる前にメインも縮帆すべきだった。
キャプテンの背後、木更津の上空だけ黒雲が覆っている。10月7日の正午頃、局地的な低気圧発生!
ちなみに、5日(日)朝に小笠原沖で発生した台風22号は(15時の中心気圧1000hpa)は、6日(月)15時時点では西向きだが、7日(火)15時時点で方向が変わり始め、8日(水)15時時点(935hpa)で北北東へと方向を変えて本州に近づき始めた。
画像引用:ウエザーニュース2025-10-8
「コントロールが難しい!」とキャプテンの声。
「観音崎をかわしたら広い水面で風に立ててメインを一気に下ろしましょう!」
なんと、浦賀沖に出ると、久里浜の方は海がのどかに光っていた。
ヨットを風に立てて、ブームをセンターに固定し、メインハリヤードのロックを解除し、一気にセールを下ろした。
三浦半島の久里浜沖から房総半島側に東京湾を横断。
保田漁港の浮桟橋に着岸。我々の他にヨットはいなかった。
ホッと一息ついて近くの食堂に行くと「ラストオーダーは16時50分なんです」と謝られる。田舎の店は閉まるのが早い。
結局、スーパーで寿司や刺身、カチ割り氷を仕入れてキャビンで宴会。
津波で濡れたキャビンのマット類は近くの無人クリーニング施設で乾燥。
それにしても今回の木更津上空の局地的低気圧、原因は何? 海辺の煙突の煙は陸地方向に真横に流れていた。黒雲は何層にも重なって不気味。雨は降らず、雷も鳴らず、1時間ほどの異様な空模様。
仕方なく7日は早朝、一気に寄港した。
この写真を撮れたのは、セーリングの成果。
左は6日夜の、満月。
右は7日早朝、海側に移動した満月。