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1923年、23歳のアマチュアレーサーであったトゥーリョ・カンパニョーロは、11月にイタリア北部の山岳地帯ドロミテのクローチェ・ダウネ峠で苦い思いをした。ギヤが両側に付いているホイール(ダブルコグ式)を入れ替えようとハブのウイングナット(蝶ネジ)を外そうとしたが、泥が凍りついて、かじかんだ手ではナットを外せなかった。その経験からトゥーリョはクイックレリーズを発明した。

そのクイックレリーズ機構を基にロッド式変速機のアイデアをトゥーリョは1933年に考案する。それが形になったのは、40年代初期の「カンビオ・コルサ」(イタリア語でレース用変速機)である。1949年には1本レバーの「パリ・ルーベ」に進化し、サンプレックスを筆頭とするフランスの変速機に挑んだ。

トゥーリョは1935年(昭和10年)にロッド式変速機の特許が認められると、家業の金物屋作業場でつくった変速機と工具をカバンいっぱいに詰めてレース会場に行き、レーサーひとり一人を説得して熱心に売り込んだ。人気選手のラフェーレ・ディパゴが戦績をあげると、ジロ・ディ・イタリアやツール・ド・フランスのレーサーたちにカンパニョーロの認知度が上がった。

当時の代表的レース用変速機は、フランスのスーパーチャンピオン、イタリアのヴィットリア。それらに対してカンビオ・コルサはシンプルである利点と、操作性がとても複雑な欠点を併せ持っていた。

カンビオ・コルサには2本のレバーがある。上レバーはハブ車軸につながっている。下レバーはチェーンを左右に動かすフォークにつながっている。専用エンドには歯が刻まれ、ハブ軸が一定間隔で移動してチェーンテンションを吸収する仕組み。

①上レバーを乗りながら操作して車軸を緩める。

②ペダルを逆転させながら下レバーを操作して変速する。このとき、固定されていない車軸はチェーンテンションにあわせて前後に動く。

③上レバーを操作してハブ車軸を固定。これで変速操作完了!

トゥーリョは1937年(昭和12年)に、ツール・ド・フランスでプロレーサーでも変速機が解禁されたときにレースを視察してフランス製(9割がサンプレックス)が席巻する変速機市場に対抗心を燃やした。だがロッド式のカンパニューロは高価なので売れたのはせいぜい数百個。一方、安価なサンプレックスは年間150万個だ。

また、戦前のレーサーたちが変速機に抱くイメージは、「ないよりましだ」であった。なにしろ、チェーンが11/8インチ(3.2mm幅、現在のシングルギヤ厚歯用)のために3速か4速が一般的。また構造上キャパシティー(歯数差の合計:弛みの吸収量)が少なく、多くのレーサーは相変わらず急な丘は押して歩いていた。

ちなみに、サンプレックスは1936年(昭和11年)に13/32チェーンを採用して3・4・5段まで対応する変速を実現している。

 

変速機コラムは六城雅敦さんがCYCLE SPORTSに2017年6月号から2019年8月号まで25回連載した「変速機を愛した男たち 温故知新」をベースにしています。©?六城雅敦、リライトcoppi

 

 

Post Author: coppi