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著:斎藤 純 刊:ハヤカワ文庫

日中戦争の足音が忍び寄る昭和9年、前代未聞の実用自転車による本州縦断サイクルレースが開催される。山口県下関から青森県津軽半島までの距離1,600m。国策に反しての多額な賞金を狙い、寄せ集めチームを結成した響木、越前屋、小松、望月の4人は各々異なる思いを秘めつつ、有力チームと死闘を繰り広げるが…。

あえて商用実用車によるレースは、陸軍が軍事利用での耐久性をテストする思惑があった。時代考証が緻密。ロードレースならではの駆け引きが深く描かれ、ライバルとの軋轢、葛藤、面白い。上下巻で約700ページある長編だがついつい物語に引き込まれてしまう。

著者の斎藤純さんは自転車乗り。主人公の響木のモノローグがいい。『何のために走っているのか、と響木はまた自問した。脚の筋肉の痛みに耐え、肺が締め付けられるような苦しみにも耐え、ただひたすらペダルを踏んでいる。ドイツチームに負けたくない、という意志が脚を動かすのだろうか。オリンピックのように国旗を背負っているということか。(中略)響木は首を横に振った。俺が走っているのは国旗のためでもなければ、父親の復習のためでもない。単に人より速く走りたいと思う気持ちだけでペダルを踏んでいる。それだけだ』

結末までドキドキしながら楽しめる冒険自転車競争推理小説だ。

Post Author: coppi