“デルニ” (フランス語: Derny)は、自転車競技で用いられるペーサー用モペット。小排気量のデルニはペダル付きでハンドルの前に燃料タンクがある外観が特徴です。ケイリンや6日間レースで先導バイクとして使われ、UCI 規則第46条に規定されている。しかし、若い人は馴染みがないでしょうね。
先日、アマチュア用の長野・美鈴湖自転車競技場に立ち寄ったとき、埃を被ったデルニと、古びたヤマハ・パスを見かけたのがこの記事を書くキッカケ。coppiが自転車コーチングを始めた20年ほど前はデルニを各地の競輪場で見かけた。2サイクル混合の排気ガスが臭かった記憶がある。だが、それは間違いだった。
1980~90年代にオランダで活動した元選手でベルギー在住の山宮正さんにデル二についてご教示いただき、かつ貴重な画像を提供された。山宮さんのコメント。
1930年代スタイルのペーサーに付いて走る山宮さん photo©️山宮正
<排気ガスですが、デルニもドミフォンも後方の選手に排ガスが直接及ばないような排気構造なっているので、排気ガスを吸わされることはありません。エンジンの排気量は、デルニは90〜125cc程度。ドミフォンは、360~750ccほどで、周長の大きい屋外トラックでは、750ccがほとんどでした。
屋内競技場で周長が200m以下のトラックでは、小型の改造オートバイが使われていました。排気量は不明ですが、ほとんどがチェーン駆動ではなく、ベルト駆動式でブレーキは付いていませんでした>
<日本ではデルニレースとドミフォンレースを混同している人が多いようですが、全く別の種目です。デルニレースは、トラックもロードも通常のトラックレーサー、ロードレーサーを使用します。ドミフォンレースは自転車がドミフォンレース専用のドミフォンレーサーを使用します>と、ここで“ドミフォン”の用語がわからない人もいるでしょうが、Googleで調べてください。山宮さんは現役時代、ドミフォンが得意種目で1990年のグリーンドーム前橋で開催された世界選手権には日本代表プロ選手として出場した。
下の写真は山宮さん photo©️山宮正
最初のデルニー「ボルドー・パリ」は1938年にフランスで誕生
<先導するモーターサイクルもデルニとドミフォンは、単純に排気量が異なるだけでなく、完全に構造が別物です。デルニは、実用車のペダルを取り付けた短いクランクが後輪の固定ギヤにチェーンで繋がれているので、ペーサー(デルニで誘導する人)は常にペダルを回している状態で走行します。固定ギヤで繋がれている理由は、エンジンが突然停止するような故障が生じた場合に、急激に減速することを防止するためです。(後方の選手が突っ込まないように)
ドミフォンレースに使われるオートバイは、通常のオートバイをオートマチックに改造し、ペーサーが直立した状態で走行できるようにサドル、ハンドルなども改造されています。
また、後輪の後方にローラーが取り付けられていて、基本的に選手はそのローラーに前輪を接触させながら走ります>との由。山宮さんは、ペーサー付きレースのスペシャリストで、10年間でデルニとドミフォンを合計250レース走っている。
1991年に使ったアマンダは世界初のカーボン製ドミフォンだ! photo©️山宮正
ちなみに、21世紀の日本ではスクーターバイクの後方を写真のように風を遮るボードを取り付けたペーサーバイクで練習する事例もある。東京都自転車競技連盟ではヤマハ・パスをケイリン種目のペーサーとして使っている。
デルニレースでcoppiが思い浮かべるのは“6日間レース”だ。昔はベロドロームが社交場のように作られ、飲食しながらさまざまな種目のトラックレースを観戦できた。
山宮さんが欧州における現状を教えてくれた。
<冬季屋内トラックの『6日間レース』ですが、私が初めてイタリアのミラノに観戦に行った1981年には、世界各地で9月末から3月初旬まで、33都市で開催されていました。 それが現在は、何とたったの4都市まで減少しています。 もはや絶滅危機イベントですね。 『6日間レース』に限らず、トラックレース自体がどんどん衰退しているのです。現在開催しているのは、ベルギーのGent、オランダのRotterdam、ドイツのBremenとBerlinです。 この4都市には、遠方からも観客が訪れるので、連日満員になっています。ファンは少なからず存在する訳で、遠方からでも観戦にやって来る。 早くから前売り券を買わないと入場できません。 だからと言って、トラックレースが盛り上がるのは、その時だけで、私が現役で走っていた時代のように夏は屋外、冬は屋内競技場が頻繁に満員になるような人気はなくなりました>と、ちょっと寂しい。
つい3週間前に終了したGentの6日間レースがコチラ
https://www.youtube.com/watch?v=ArN2e13bGHs
coppiが若いころは街道を走る大型トラックやバスをペーサーに見立てて、持久走の練習をしました。今、そんなことをすると煽り運転で逮捕されます。
とはいえ、ガタイが大きくて風圧を引き受け、いいスピードで牽引してくれる練習仲間が身近にいるとうれしいですね!