これまで3回にわたり海苔舟に拘り、小型の和船と海苔漁について調べて書いた。
それにしても、『大森 海苔のふるさと館』で購入したDVDを自宅パソコンで再生し、「ずいぶんと遠回りしたな」としみじみ思った。
『大森 海苔のふるさと館』
先日まで長い臨時休業で、訪れたのは海苔舟を展示している市原市、浦安市の両博物館より後回しとなった。が、この入館無料施設が提供する整理された情報量はピカイチ!!
一階入り口にド〜ンと海苔漁に使用された船が、大・中・小(小=べが舟)と現物展示されている。展示物前に立つとセンサーが4分ほどの視聴覚映画を自動再生。これを観るだけで、海苔漁の歴史がざっくり理解できる。

二階に移動すれば、海苔漁で使われた道具・民具の展示はもちろん、子どもにも楽しくわかる工夫を凝らし、郷土の海苔に関する諸々が解説されている。ここでも、体験教室的な催しがある。所蔵品は平成5年11月に重要有形民族文化財指定された。

『大森 海苔のふるさと館』二階の展示は秀逸!
休憩コーナーに、無償配布の『大森 海苔のふるさと館ニュース』があって、海苔生産者が中心となり情報共有する“海苔サミット”や、大田区の海苔養殖を深掘りしたエピソードなど話題満載。NPO海苔のふるさと会が年6回発行・配布している。ニュース記事を署名執筆したIさんが当日、ふるさと館の窓口にいらっしゃり、「べか舟に興味がある」と告げると、下記の史料を教えてくれた。
大田区の船大工、中ベカを復元
1996年(平成8)、大森にはまだ船大工の兄弟が健在で、彼らが大森 海苔のふるさと館のために43年ぶりに中サイズの海苔船を造船した。
その記録が大田区立郷土博物館により紀要として詳細にまとめられた。それを前述のIさんから見せていただくと、ブログ連載で取材した舟つくりの技法が実に詳細に載っている! 「紀要は残部がないけれど、DVDなら1200円で販売手中です」と言われて即購入。
元本にあたりたい向きなので、紀要を所蔵する大田区東図書館で閲覧し、特に知りたい部分をコピーした。この日、海苔のふるさと館で取材し、紀要を熟読し、昼飯を忘れて没頭。

DVDには紀要PDFのディスクが同梱されているのを後で知る
まあ、そんな大森 海苔のふるさと館の出来事をいま振り返れば、通説を一気に学べたのが大きな成果。だが、もしも最初にこの施設を訪問し、整理・体系化された海苔漁と、べが舟をつくるDVD映像に触れていたら、各地での関係者との貴重な出会いもなかった。だから、「ずいぶんと遠回りしたな」とも思ったが、後悔はない。
べが舟は、大森、浦安、市川、富津など、異なる場所で、家内制手工業の船大工が作った。だから、いずれも全長が4.5m程度で、デザインも基本は同じではある。
が、細部は違っていたのではないか。船大工が違えば、細かい使い勝手も違うはず。なにしろ、マスプロダクションのFRP船じゃあないのだから。
山本周五郎の『青べか物語』を読めば、そうしたことに想いを馳せる。
また、浦安のTさんは、船首である水押しの呼称を「みおし」と表現する。だが、船関連の文献には「みよし」としている例が多数派。
場所が違えば、言い方も変わって当然だろう。

じつに面白い。
謝辞
複数の博物館・資料館の解説、職員や学芸員のみなさまに、取材の水先案内をいただきました。
『木更津市郷土博物館 金銀塚』(千葉県木更津市)
『君津市漁業資料館』(千葉県君津市)
『市原市歴史博物館』(千葉県市原市)
『浦安市郷土博物館』(千葉県浦安市)
『大森 海苔のふるさと館』(東京都大田区)
INSPIRE
高橋在久著『江戸前――年輪と光景――』第一法規出版・平成6年3月10日刊